子どもたちの文章表現指導を誰にでも出来る一般化理論の構築・えのさんの綴り方日記

ノンプログラム・プログラム

ノンプログラム・プログラム

(六)
(前略)
 系統案作りでは、表現各過程における指導の系統、表現諸形体に関する指導の系統を考える中で、子どもが題材化して示す対象の意味内容を、どう予想し、どんなことに期待をかけるかということを吟味しはじめた。つまりわたくしたちは、低学年から中・高学年にわたり、中学生段階にわたって、
☆自然についてはどんなところまで、その意味をつかませたいのか?
☆社会については、どんなことをつかませたいのか?
☆人間については、どんな側面に目をつけさせたいのか?
 これを頭の中において、指導の系統を考えようとしたのである。学年が進むにつれて順次に指導していくことを示すひとつひとつの「指導題目」の中で、自然や社会や人間のどんなところに気づきやすいようにさせるか、その意味のどの辺まで接近していくようにさせるのかを考えていくことになったのである。もちろん題材は子どもが自由に選ぶ。新課題とした場合でも、自由な題材選びをする。しかしその中で、
☆初歩的・事実的・基礎的認識をつちかう段階では、対象についてどの辺までのことを認識させたいのか?
☆各教科で科学的・本質的な知識を獲得したあとの段階では、どのようなところまでの認識を、なまの現実についてえさせたいのか?
を、おおよそのめやすとしてでも考えていこうとしたのだった。
 ところで、ひるがえってみれば、これは、まさしく新しいプログラムを作り出そうとすることではないのか。(略) 今までいってきた「ものの見方・考え方・感じ方」のプログラムを作ってみようということに、それはなるのであった。「自由な題材で書かせる」というノンプログラムの段階から、自由な題材で書くのだけれども、次々に「対象(自然や社会や人間)については、これこれのことに気づくようにさせよう」と考える新プログラムへの追求をし始めたのである。
  (略)
(七)やがて七十年代にはいると、わたくしたちは、「人間理解のためのつづり方教育」の充実に力を入れなければならなくなった。ここにはくどくどのべないが、高度経済成長のひずみが、子どもたちをも人間というものから疎外していくことになったからだった。わたくしたちは、ますますもって、地域的・全国的・世界的な新環境の中の自然や社会や人間という対象が持つ意味、人間の内面が持つ意味に、子どもたちが気づくよう、それがわかるよう、それを悟るよう、それに問題意識をもつよう、それを追究するよう、積極的にとらえるよう、その指導に心がけなければならなくなった。
 そこで系統にならないとして、こういうことだけは頭に入れておこうというものを、系統案作りのための参考として提出してみることとしたのだった。それが、羅列的ではあるが、つぎのようなものである。各項目について、いくつかのことをならべているが、これはごく初歩的なものから、しだいに高度のものへという順序で並べてあるのである。

☆対象が持つ意味に関して

(1)なまの自然について

◆自然そのもの

・自然の美しさ
・自然のなかのいのち
・自然はうまくできている 
・自然の神秘
・自然は移り変わる
・自然は動く
・自然のやわらかさ・はげしさ
・自然の恵み
・自然の理法・法則 

◆自然と人間

・人間をつつむ
・人間との調和・共存
・人間をはばむ
・人間にじゃまする
・人間の利用する自然
・人間が統御・克服する自然
・人間がたたかう自然
・人間にこわされる自然
・人間におそいかかる自然
・人間のからだの(生物としての)自然
・人間の生命・死

(2)なまの人間について

◆成長

・子供は生まれ、育っていく
・青年は活力を持つ
・おとなは年をとっていく。

◆日常生活

・自分とは
・自分はどう生きるか
・祖父母・老人はどう生きてきたか、生きているか。
・人(他人)はどう生きてきたか、生きているか
・人々は喜怒哀楽する。
・人々は衣食住に心をつかう
・人々は道具をもち大事に使う。
・人々は仲良くし、また争う
・人々は愛情を持ち、愛を求める
・人々は遊びを楽しむ
・人々はさまざまな遊びをする。
・人々はものごとについて考える
・人々は協力し、また、反発し合う

◆できごと

・人々は病気をする
・人々は事故にあう
・人々は誇りを持つ
・人々は夢を持つ
・人々は失敗し、成功する
・人々は別れ別れになったりする
・人々は思いがけぬ出来事にあう

◆しごと

・人はしごとをしたがる
・人はしごとに喜びと誇りを感じる
・人はしごとのしかたを工夫する
・しごとは疲れをもたらす
・しごとはいろいろある(自営、やとわれ)
・しごとは人々をりっぱにする
・しごとはうまくいくときと、いかないときがある
・しごとは人々の暮らし方をかえる
・しごとは人々の心を結びつけたり、引き離したりする

◆趣味と学習

・人には好むものがある
・子どもは勉強しなければならない
・おとなも勉強しなければならない
・仕事のなかで覚えたことは大切だ
・先生という専門家がいる
・勉強は人々の生き方を変える
・勉強のしかた、なかみにはいろいろある
・勉強にはおわりというものがない

◆文化

・風俗習慣がある
・人間はさまざまな文化をつくりだす
・文化は人々を豊かにする
・文化が売り物になるときがある
・みんなのための学問や芸術がりっぱなのだ
・文化と人々の仕事とは深い関係がある
・文化は人々の暮らし方によってそのねうちが変わってくる

(3)なまの社会(世の中)について

◆社会そのもの

・私たちは集団のなかに生まれ落ちた
・私たちは集団のなかで暮らしている(家庭・学校)
・集団や世の中にはさまざまなことがある
・社会のなかにはいろいろな考えの人がいる
・社会のなかにはいろいろな考えの人がいる
・社会のなかでは金が使われている
・金を出すとほしいものが手に入る
・社会にはくらし方がちがう人がいる
・村、町、市、県、国などがある
・大きな都会、小さな町、部落などがある
・それぞれの社会にそれぞれの特徴がある
・偶然と思われる社会のできごとがある
・必然的だとわかる社会のできごとがある

◆社会の問題

・楽しく生きる人とそうでない人がいる 
・貧しい人と富んだ人がいる
・使う人と使われる人がいる
・それぞれの人にそれぞれの考えがある
・退廃や罪におちいる人がいる
・男と女の差別がある
・部落の人やその他の差別が残っている
・能力による差別がだんだん広がっている
・古いしきたりが残っている
・新しいものがよくない役割をしている
・さまざまな矛盾が発生している
・人間が不平等な状態におちいっている
・人間が人間らしくなくなっていく
・産業発展のために公害が起こっている
・自分の利益、立場のために多くの人を犠牲にしている人たちがいる
・外国とも反目するときがある
・戦争を推し進める人たちとそれに反対してたたかう人たちがいる
・人々はくらし方はちがっても同じ願いをもっている

◆社会の変化、発展

・人類の平和が大切にされるときとそうでないときがある
・民主主義が生かされていくときとそうでないときがある
・幸福追求の権利をみんなが持っている
・みんなが力を合わせて立ち上がっている

※ この「認識内容」の指導に関する指導語は、今までの系統案から抜き出すとなると、いたって少ない。これは、我が国におけるこの点についてのつづり方教育の立場からの研究の弱さだといってよいだろう。それは、「ノンプログラム」という考え方とあいまって、過去五十年間、まだそこまでつっこんでいく教育を、わがつづり方教育がみずからのものとしていなかったからだといえるだろう。だからこの点についての研究がいっそうさかんになる必要があり、このことの研究の発展によって、われらのつづり方指導系統案作りは豊かなものになっていくはずである。

☆ 対象の持つ意味をとらえる子どもの認識の方法と操作に関して

◆ 「現象からしだいに本質へ」ととらえさせるために

・ひとつのものをバラバラでよいからしっかりつかむ
・ものの形をよくつかむ
・ものの色をよくつかむ
・もののにおいをよくつかむ
・ものの味をよくつかむ
・ものの量(大小、高低など)をよくつかむ
・ものの感触をよくつかむ
・ものの動きをよくつかむ
・ものの性質をよくつかむ
・ものごとを比べてみる
・似ているところをとらえる
・きわだって似ているところをつかむ
・ちがうところをとらえる
・きわだってちがうところをとらえる
・同一と差異を区別する
・共通なものを抜き出す
・分類してみる
・部分と全体の違いを知る
・現象を現象としてつかむ
・いちじるしい現象を抜き出す
・本質のあらわれである現象を抜き出す
・初歩の概念をつくってみる
・一般的な表象をつくる
・すこし抽象化・概括化してみる
・ものごとをありのままに見る
・先入観や偏見を捨ててものごとを見る
・疑問をもってみる
・なぜだろうと考えてみる
・こうかしらとためしに考えてみる
・仮説を立てる
・実験する
・体験をする
・行動してみる
・人にたずねてみる
・調査してみる
・事実に照らしてみる
・既知の知識を使って確かめる
・芸術、文学などとの間接体験にてらしてみる。
・原因と結果との関係で考える
・判断を出す
・推論する
・根拠にもとづいて判断する。
・部分部分をしっかりつかむ
・部分と部分の関係をしっかりつかむ
・部分を全体のなかへあてはめてみる
・部分をあわせ、全体と関連づけてみる
・全体から部分をながめてみる
・分析し、総合してみる
・特殊と一般を対比してみる
・特殊から一般を考えてみる
・一般から特殊をとらえてみる
・具体化してみる
・具体的にみる
・概括し、抽象化、一般化してみる
・抽象から具体化へ

◆時間的、空間的、歴史的にとらえさせるために 

・過ぎ去ったことをはっきり思い浮かべる
・できごとのあとさき(前後関係)を考える
・進行している現実の事実に目を見張る
・物事を時間の経過のなかでとらえる
・古いもの新しいものを区別し、差異を見る
・未来のことを空想・想像してみる
・まわりの様子をよく見る
・物事の前後、左右、上下の関係、ありさまをつかむ
・物事の移り変わり、変化をとらえる
・物事の動きをつかむ
・歴史の流れのなかで物事を見る
・進歩と発展のなかで物事を見る
・発展のふしに注意して物事を見る
・矛盾や不合理をありのままにつかむ
・歴史の発展に期待して行動する姿勢をもつ
・個人の仕事と歴史の関連について考える
・偶然と必然の関係について正しくつかむ
・社会的、歴史的、科学的にものをとらえる
・本質的なものへの追求をやむことなく続ける
・真理、真実をめざして物事を考え行動する。

◆「個人の態度・集団」をとらえるために

・まわりの物事に深い関心を持つ
・まわりの物事に積極的能動的に立ち向かう
・生活者の意識で物事について考える
・感情、情動を動かして物事に立ち向かう
・自分の考えをもつ
・自分らしい考え感じ方をもつ
・他の人の考え、感じ方を認める
・人間の心理の複雑さを知る
・共感したり、反発したりすることをはっきりさせる
・常に自分の要求をもち、集団のなかに提出しようとする
・集団の立場に立って考える
・集団のなかに個を生かす考え方を大事にする
・集団の力で問題や矛盾を克服することの大切さを知る
・自分の角度からものをみる
・さまざまな立場からものをみる
・自分の立場に立ってものをみる
・さまざまな立場からものをみる
・さまざまな立場からものをみる
・さまざまな角度、立場から全体的ものをみる
・条件の違いを考慮して考えてみる
・民族的な立場からものをみる
・人類的な立場から物事を見る
・働く人の立場からものをみる

 この方は。対象の意味そのものを示してはいない。それをとらえる子どもの認識法・操作のしかたに関した事項である。
それでも、なおかつここにあげておいた、わたくしたちが今までいってきた「ものの見方・考え方・感じ方」というのには

(1)対象の意味や美をとらえようとするときのその内容

(2)対象をとらえる子どもの側の方法・操作・態度

 二つがあるのに、わたくしたちは、これをごちゃごちゃにして扱ってきたのを反するためである。
 なお、今までに作られてきた系統案中の「指導事項」をみると、この(2)に該するものがすこぶる多いことに気づく

 以上のようなことを頭におき、わたくしたちは、子どもたちが書いたつづり方作品を、つぶさに読む。読みながら、現実の環境のなかで、子どもがどういう生活をしているかを知る。どう心を動かしているかを知る。その中で、どういうことには気づき、どういうことには気づかぬようになっているかをつかむ。心理活動・意識活動の上で、どういう方法には長じ、どういう方法・操作・態度にはうとくまた欠けているかを察知する。こういうことをくり返しながら、つづり方の系統案作り、新しいプログラム作りのためにお互いが、全国的に協働していくのである。

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