子どもたちの文章表現指導を誰にでも出来る一般化理論の構築・えのさんの綴り方日記

作品6.教師も感動したら詩を書こう

作品6.教師も感動したら詩を書こう

教師も感動したら表現したい

 車勇助
勇助よ
おまえは、8時47分の汽車で
日本をさっていった
北朝鮮の旗をもち
涙をながしさっていった
車掌が呼子をならすと
空気ドアがしまり
汽車が動きだした
テープが流れ、手がうちふられ
涙が流れ
勇助はみえなくなった
勇助
おまえとわたしのつながりは
たったの一ヵ月しかし、わたしは一生おまえをわすれない
わたしが教えた
たったひとりの外国人だから…
そんな理由ではない
おまえば、きのう
書きとりテストをうけ百点とった
おまえのはじめの点数は
たったの四十点
それが、日本での最後の勉強で
百点とった
勇助
わたしはおまえを
それゆえにこそ忘れない
いつかまたあえる日まで
 (真壁仁編『詩の中にめざめる日本』岩波新書より)

 土田茂範先生は、30年以上前に、教え子の一人との別れを、このように感動的に書いた。当時、学級全員が100点をめざす漢字学習をやっていた。車勇助が、日本での最後の授業で100点をとることができたら、どんなにすばらしいおくりものになりはしまいかと考えた。
 第1回目のテストの平均は58・5点で、100点は誰もいなかった。2回、3回と続けて、7回目の時の平均は96点、勇助は95点になっていた。8回自のテストで、勇助はみごと100点をとった。朝鮮人である勇助に、教師としてやらなければならないのは、書き取りで100点をとらせることだけではなかった。民族の歴史・民族の誇りをこの子に与えることであった。しかし、つながりが一ヶ月に過ぎなかったから、それはできなかった。
 およそこのような注釈が、この詩のわきに書き込まれている。土田先生は、何でも努力すれば出来るんだという自信を、漢字諌習の過程の中で植えつけたかったのだろう。
 車少年も、自分の精一杯の力を出しきり、日本での最後の勉強で100点をとることができた。今は、朝鮮民主主義人民共和国に帰り、立派な大人に成長した車少年も、日本でのこのできごとは、心の中にきざまれているにちがいない。

感動する教師

 汽車が動きだした後に、おそらくクラスの子どもたちの中にいた土田先生は、思い切りないた。勇助の乗った汽車が見えなくなるまで、手をふり続けていたにちがいない。こんな感動をクラスの子と一緒に作り上げた土田先生は、いつどんな場面でも、子どもの側に寄りそえる教師であるに違いない。事実、この詩を書いてから三十年はたったであろう現在、土田茂範先生は、1987年4月号の『作文と教育』の中に障害児学紐の一人の子との触れあいを、心あたたまる実践報告文にして投稿している。山形県西村山郡大江町七軒東小学校の校長先生になっても、子どもとたくさんかかわりながら、感動した場面をひとまとまりの文にしあげている。

おたまじゃくしが泳いでいるよ

 もうずい分前の出来事だったが、新幹線に乗っていた時の事である。隣りに座っていた五歳位の子どもが、週刊誌を読んでいた母親に、「おたまじゃくしが泳いでいるよ。」と、叫んだのである。降っていた雨が、列車の窓をいきおいよくぬらし、その動きが、おたまじゃくしが、ちょうど泳いでいるように見えた。その子は、その驚きを母親に伝えたかったのだ。
 そばにいた私は、その小さな子の発見に、すっかり感動して、窓のその動きに見入ってしまった。その時、その母親は、その子のすてきな発見に何の反応もせず、ちょっと顔をあげたままであった。そのやりとりを見ながら、子どもの可能性を一つしぼませてしまったことが、はがゆかった。
 我々も、子どもの驚きや発見に共感し、自分自身も、ものやことに寄りそい、しなやかな心や体を持ち続けたい。
1987年6月5日発行

土田茂範さんの生き方

 土田茂範さんとは、縁あって国分さんが亡くなってから毎年一度は山形でお会いしていた。2号で取り上げた鈴木千里さんとは、山形の作文の会などで親しい関係が続いていたようだ。「こぶし忌」の前日、現地の人との交流会があった。親しくお酒を飲みながら語り合えた。しかし、飲めば飲むほど、山形弁の言葉には、意味がほとんど通じなかった。悪いから、返事をしていたが、失礼なことだが、これだけは他の理論研究会の仲間も同意見だ。その土田さんも、2003年10月に亡くなられた。亡くなる直前に「海図のない航路」ー山形児童文化研究会の50年ーという立派な本を私費を投じて発行されている。我が家に20冊ほど、山形の村田民雄さんから送られてきた。理論研究会の方で有効に使ってほしいとのことである。詳しくは読んでいないが、資料を丹念に整理されていたことがうかがえる膨大な資料がちりばめられている。これからじっくり読んでいきたい。
2011年11月5日

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