作品19．戦争がどんなにつらいかを感じた日
作品19．戦争がどんなにつらいかを感じた日
墨田区立堤小学校 六年 女子
二月二十六日の五時間目に、実際に戦争を体験した人の話を聞きに、ランチルームに向かった。ランチルームの前には、二十人くらい集まっていた。四列に並んで、ランチルームの中に入った。ランチルームには、まだ、だれもいなかった。ボードに何か貼ってあったから、よく見ると、「信ちゃん」とプリントされた紙がはってあった。私は、
（何で「信ちゃん」なんだろう。）
と不思議に思った。一，二分くらい待っていたら、緑色のセーターを着て、眼鏡をかけて、大きな紙袋を持った男の人が入ってきた。その男の人は、なぜか腰に糸を通したカンをまいていた。私は、
（何で腰にカンをつけているんだろう。）
と思った。松井先生が、
「え～今日、戦争のことを話して下さるのは、福田稔さんという方です。今日は、よろし くお願いします。」
と言った。四・五・六年の児童全員で、
「よろしくお願いします。」
と言った。福田さんは、ゆっくり立って、
「皆さん、あらためまして、こんにちは。」
と私が予想していた声より、はるかに大きい声で言った。私は、
（すごい迫力だなあ。）
とおどろきながら思った。いよいよ、話が始まった。私は、話を聞いている間、どうして「信ちゃん」なのか気になっていた。話の中で、私は、心に残った話がいくつかあった。一つ目は、焼け残った家にいた一人のお祖母さんが、当時十六才だった福田さんに、
「水を飲んで行きなさい。」
と言って、福田さんに水をくれて、おまけに、イモを一本くれて、
「あんたもがんばりなさいよ。」
と言ったことだ。私は、
（自分だって、食べる物がないのに、どうして、知らない人に水や食べ物をあげる優しさがあるんだろう。）
と思った。福田さんが、
「そのおばあさんの『がんばりなさいよ。』の一言がすごくうれしかったですね。」
と大きな声で言いながらも、目を細めて言った。二つ目は、入梅の時期に入って、タバコの吸いからは水にぬれて、使い物にならないし、くつみがきのお客もがらんと減って、収入が入らなくなって、困っていた。日本語の上手い女性のアメリカ兵と出会って、その女性のアメリカ兵の人は、食べる物がない福田さんたち六人に、チョコレートやクッキーなどを恵んでくれた。私は、
（ただで食べ物を恵んでくれるなんて、良い兵隊さんだなあ。）
と思った。三つ目は、西郷隆盛の銅像のとなりにあったベンチに座っていたおじいさんとおばあさんが、大きなおにぎりを食べていた。何も食べる物がなかった福田さんたちは、おじいさんとおばあさんに、
「大変失礼だと思いますが、その大きなおにぎりを半分ゆずってもらえますか。」
と聞いたら、おじいさんとおばあさんは、カバンの中から、大きなおにぎりを八つ出して、福田さんたちにくれた。私は、
（なんてやさしいんだろう。）
と思った。そのおにぎりを受け取った信ちゃんは、そのまま座って、もらったおにぎりを六等分に分けたのだ。福田さんが、
「その時の信ちゃんの背中は、とてもたくましかった。」
となつかしそうな顔をしていった。その時、私は、「信ちゃん」は、言われたことをちゃんと守って、人のことを考えられるとてもかしこい人間だと思った。四つ目は、クイズで、靴の底は何を使って〔インチキの〕修理していたかというクイズだった。私は、
（紙だと、雨のときに紙が水にしみちゃうし。）
と、簡単そうで難しいクイズに悩んでいた。いろんな人が、
「紙や草。」などと答えるけど、ぜんぶはずれだった。福田さんが、答えを言いそうになった時に、榎本先生が、
「予想ですよ。予想だけど、スルメ。」
と言った。私は、
（スルメはないだろう。）
と思った。福田さんが、
「正解。」
と大きな声で言った。私は、
（ええ～。）
とおどろきながら思った。福田さんが、
「今まで何十回もこのクイズを出してきたけど、正解したのは、榎本先生が初めてですよ。」
と榎本先生をほめていた。私は、
（何で榎本先生は、スルメってわかったの。）
と不思議に思った。福田さんの話を聞いて、あらためて戦争は、もう二度としてはいけないと言うこと、戦争とはどんなにざんこくなことかを実感した。福田さんの話を聞いて、本当に良かった。福田さんには、たくさんの人に、この話をしてほしい。
