子どもたちの文章表現指導を誰にでも出来る一般化理論の構築・えのさんの綴り方日記

墨田春秋・長谷川政國著

墨田春秋・長谷川政國著

本が2冊送られてきた。事前に出版するので、墨田教組の執行部を勤めたOBの名簿を送ってほしいと頼まれていた。すぐに送ったのが、3週間ほど前であった。本の名前は、「すみだ春秋」という名前がついている。墨田教組に所属していた人には、懐かしい名前のタイトルである。著者は、長谷川政國さんである。
 長らく墨田教組を背負ってきた内田宜人元委員長が退職され、週刊墨教組(組合新聞)を一人で毎週1度発行してきた。その本人がいなくなるので、組合の執行部が中心になり、その新聞を作ろうとなったのである。当時私は、執行部にいなかったが、長谷川さんから連絡を受けて、何か作文のコーナーを月に1度、紙面を埋めてくれないかという依頼があった。「はじける芽」という名前をつけて、退職するまでの期間(20年間)継続して、分担させていただいた。長谷川さんは、「すみだ春秋」という名前で、私と同じに格調高い文章を退職するまで続けた。私の場合は、こどもの文章が材料なので、教室で生まれた優れた作品を紹介することが中心であった。しかし、「すみだ春秋」の文章は、かなりの資料を読みこなしてないと、書けないような重厚な文章が中心であった。

あらためて読み直す

 今回あらためて最初から読み直してみた。どの章にも、思い出が残る文章ばかりである。特に印象のある章は、「おのづかゆきお・水揚げ」-辻征夫である。おのづかゆきおさんは、私が小梅小学校に勤めたときの最初の教え子さんのお父さんである。お寿司屋さんを経営されている方であった。小梅時代も、時々お寿司を食べに行った。そのおのづかゆきおさんと、言問小学校時代の同級生が辻征夫さんである。辻さんは、たびたび長谷川さんの「すみだ春秋」に出てくる詩人である。私は、この文章が、新聞に載った何日かあとに、その新聞を持って、寿司屋にはせ参じた。おのづかさんは、うれしそうにその記事を読んでいた。やがて、その記事のことが、辻さんにも伝わったらしい。それは、辻さんが、同級生でもあるので、その店に来ると言うことを聞いていたからである。その辻さんの詩とその解説を紹介したい。

「おのづかゆきお・水揚げ」-辻征夫

 向島を舞台にしたテレビ番組「芸者小春の華麗な冒険」は、主役をはじめミスキャストがたたって、タイトルとちがって、華麗でないドタバタのくりかえしである。
 ただ、隅田川・墨堤・言問橋、あるいは言問や小梅界隈の街並みが画面に映し出されると、そこはかとない郷愁をおぼえる。墨田という水上に棲みついた地霊のなせるわざであろうか。(途中略)
瞑目し 沈思する 瞼の裏の
いにしえの 向島
叱られたあにさんのおれが
団子食いながら大川を眺めていると
あらこんなところでなにしてんのさ
振り向けば同い年のいまいちばんのうれっこの髪結いがえり
ついにおいでよ蜜豆でもおごるからさ
このごろあんたちょっとへんだって評判だよどうしたのさ
うるせえおれのことなんぞに
構うなってことよ
てめえなんかどこかのじじいと
箱根でもいっちまえ
おととしてめえが十六で 水揚げの日に
二代目とゆたかと無鉄砲とおれの四人で
はじめて大酒のんでそろってげろ吐いたことなんか
てめえがばばあになったって
おしえてやらねえや
 キーワードは「水揚げ」「松屋筆記」は、この言葉をこう解釈している。「娼家にて娼女を船にたとえて云う詞あり。少女を新造というのは、船の新造より云えり。始めて閨中を試みるを水揚げといえり。船につみたる物をおろす水揚げといえばはじめて客にあわしめて、その金銭を得るを、船荷を得るにたとえるなり」 
 ああ、なんたる、悪童四人の純愛地獄編!
 この詩「これいにしえの嘘のものがたり」を収めた辻征夫詩集「ヴェルレーヌの余白に」は、昨年度の高見順賞を受けた。通俗的には、詩人最高の栄誉である。
 なお、「おのづかゆきお」は、墨田中学校のそば、水戸街道ぞいの「あつみ鮨」のご主人である。この人のいきが、「芸者小春・・・」の出演者たちに、ほんの少しでもあるとよいのだが。
(この稿を書くにあたり。かくれた詩の目利きにして色道の粋人の高木義雄さんから貴重な助言を得た。)

20年ぶりの再会

 なお、小野塚さんの子どもたちが、昨年クラス会をスカイツリーのよく見えるアサヒビールで妻も一緒に開いてくれた。すでに48才になっていた。おのづかさんの「あつみ鮨」は、すでに10年近く前に店を閉じた。奥さんのふるさと青森県に帰ったという話を聞いていた。昨年のクラス会を開く前に奥様が亡くなられたという訃報の葉書を頂いた。たまたまこの日は、青森から墨田の方に来ているというので、お嬢さんの純子さんにお願いして、クラス会に来ていただいた。20年ぶりくらいの再会になった。子どもたちと一緒に、楽しんでくれた。
 あとがきを読んで、次のような文章を読み恐縮してしまった。
「すみだ春秋」を書き続けるにあたり、次の方々の出会いが支えになりました。
 もう一人の「勤評闘争の子」大田原和子さん。國分一太郎の愛弟子、榎本豊さん。はじめに温かい感想をいただいた長島正美さん。誰よりも内田さんを敬慕する二人。(後半略)
 本当にすてきな本が完成した。墨田で一緒にいた仲間の人は、書店で購入してほしい。 「すみだ春秋」(績文堂)定価1800円 一読をお勧めする。

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