子どもたちの文章表現指導を誰にでも出来る一般化理論の構築・えのさんの綴り方日記

会話について考える

会話について考える。

「会話」について、もう一度深める。

ー会話を生き生きさせるにはー         

 前回、早川提案のまとめの中に、次のようなまとめがされた。
①したことを中心に書く〈2文3文から10文くらい-200字程度以内ー〉
②自分の言ったこと、相手の言ったことを1回しか入れないで書く〈同上〉
③自分の言ったこと、相手の言ったことを2回ずつ以上入れて書く
  (ー会話文展開ー)〈少なくとも10文字以上-200字~300字程度ー〉
①②をへて、③ができるようになってくると、いつのまにか
(1)順序がととのった文章になる。
(2)いくつもの場面を羅列することなく、1つの場面を1つの話としてまとめるようになる。
(3)描写する力、いわゆる表現力が高まっていく。
(4)会話文展開で他者理解の幅を格段に広げていく。
(5)他者理解がすすめば問題解決の力が高まる。

 その後に、田中定幸さんから、「『会話』を書くことが心をケアする・週一日記のすすめ」『子どもと教育』(兵庫教育文化研究所)を送っていただき、それを読み、会話のある文を自分なりに考えて見たくなった。
①「会話」を意識させる。
②「会話」の書き表し方を知る
③「会話」のはたらきを考える。
④「会話」の入った日記を書く
⑤「会話」を意識することで育つもの
として、具体的に作品を通して、会話のある文の意味を分析している。

★会話のはたらきを考える。低学年 その1

   クリスマスプレゼント 墨田区立柳嶋小 2年 石川ゆうき
目がさめた。
「あったあった、今までで一番大きいぞ。やったあ。」 ①
やっぱりサンタクロースは、きたんだ。
となりで弟も目をさました。
「わあ、大きい。」 ②
と、大きい声で言った。
ぼくはいそいでお母さんの所へ行って、
「クリスマスプレゼントがきたよ。すごく大きいよ。見て見て。」 ③
お母さんは、
「よかったね。サンタさんいつきたんだろうね。」 ④
と言う。ぼくは、
「ぜんぜん気がつかなかったよ。サンタさん、かぎがしまっているのに、よく入れるね。」 ⑤
と言う。
お母さんは、
「ほんとだねえ。ふしぎだね。」 ⑥
来年は、サンタさんを見てやるぞ。 1996年作

作品分析

 ①の会話で、クリスマスプレゼントを見つけて喜んでいることが伝わってくる。となりで寝ていた弟がその声で目を覚ましているくらい大きな声だったことが予想できる。②の会話は、そのプレゼントを見て、同じように驚いている弟のことがわかる。「大きい声」と、そのときの声のようすが書かれているので、同じように喜んでいることが伝わってくる。③の会話は、クリスマスプレゼントが来たことと、すごく大きいことを母親に早く知らせたくて、「見てみて」と喜んでいるようすが伝わってくる。④の会話は、お母さんが一緒になって喜んでいることわかる。「いつきたんだろうね。」と、子どもと同じ気持ちになって考えている。このときの母親の気持ちは、幸せな気持ちになっているに違いない。⑤の会話は、サンタが来たことに気がつかなかったことと、かぎがしまっているのに、どうやって入ってきたのかと不思議がっていることもわかる。この会話は、お母さんに答えを求めている。⑥の会話は、子どもの気持ちを大切にして、同じように不思議がっていることが伝わってくる。
 ここで、もう一度この詩の中で、会話の役割を考えさせたい。この詩の中に、会話がなかったら、どうなるだろう。プレゼントを発見して喜んでいるようすは、この①の会話の役割が大きい。この最初の会話によって、喜びの瞬間が切り取られている。本当ならば、最初の1行は入らない。そうなれば、会話によって、読み手にその感動が伝わる書き出しと言うことになる。
 最後の⑥「ほんとだねえ。ふしぎだね。」と言う母親の会話によって、「来年は、サンタさんを見てやるぞ。」という決意につながって、会話で結んでいる。

★会話のはたらきを考える。低学年 その2

先生から東京大空しゅうのはなしをきいたこと
             墨田区立小梅小学校 1年 鈴木 理恵 
 3月10日のことでした。3時間目の社会の時、えの本先生が、
「きょうは、何の日かしってる人。」 ①
と、みんなに聞こえるような大きな声で言いました。わたしは、
(何の日かなあ。)
とおもったけど、お母さんにも聞いてなかったのでわかりませんでした。あらいさんと大つかさんが、手をあげました。えの本先生が、
「あらいさん。」 ②
といって、あらいさんのところを、ひとさしゆびでさしました。あらいさんは、立ちあがって、
「はい、東京大くうしゅうの日です。」 ③
と言いました。わたしは、
(きょうが東京大くうしゅうの日か。)
とおもいました。わたしは、東京大くうしゅうの本をよんだことをおもい出しました。えの本先生が、
「これから、東京大空しゅうのしゃしんを見せます。」 ④
と言って、げんこうようしぐらいの大きさの白黒しゃしんを見せてくれました。
 上の方から見たすみ田くは、田んぼみたいで、草がチョコチョコとはえているみたいでした。コンクリートのほかの木のいえは、やけてぜんめつしていました。マツヤデパートのほうは、まるでむしやきみたいでした。どうろは、人げんのしたいでゴロゴロでした。えの本先生が、
「人げんのしたいが、いっぱいでも、この人たちは、へいきだったんですねえ。」 ⑤
と、しゃしんにうつっているあるいていた人を見ながら言いました。
 土手のほうのすみ田川には、くうしゅうの時にとびこんだ人たちが、したいになってながれていました。赤ちゃんをおんぶしたおかあさんがにげていると中、ばくだんにあたって、赤ちゃんをおぶっていたところだけ白くなっていて、ほかはぜんぶ、まっくろになっていました。赤ちゃんもまっくろでした。きゅうにしたいのしゃしんが、アップになりました。そのとき、わたしは、むねがドキッとして、きもちわるくなって、すぐ下を向いてしまいました。みんなは、
「やだあ、きもちわるうい。」 ⑥
と、ワイワイガヤガヤがうるさくなりました。えの本先生のかおは、とてもかなしそうなかおをしていました。わたしは、
(もう、せんそうなんておこるな。)
と心の中で言いました。そして、
(せんそうは、こわくておそろしいなあ。)
とおもいました。わたしが大きくなっても、せんそうは、ぜったいにおこってほしくないとおもいます。
 3じかんめがおわった10分休みに、1年1組の男の子たち10人ぐらいが、
「せんそうはんたい。ぼうりょくはんたい。せんそうはんたい。ぼうりょくはんたい。」 ⑦
と大きなこえで、かた手をあげながら、1年1組のきょうしつをぐるぐるあるきまわっていました。 1983年 3月作
「84年版年刊児童生徒文詩集」(百合出版)「いま戦争を考える」(百合出版)

作品分析

 「きょうは、何の日かしってる人。」①は、ここから授業の中に入るテーマに関わる大切な会話である。場面の切り取りが、会話によって出来る。「みんなに聞こえるような大きな声で言いました。」と言う声の大きさから、教師のその日のことに対する、意気込みまで読み取れる。会話を発する人の声の調子や、顔の表情まで書き込めると、さらに大事なそのときの状況が伝わる。(何の日かなあ。)と、会話を受けて、心の中に受け止めて考えていることまで伝わる。「お母さんにも聞いてなかったのでわかりませんでした。」と素直に、自分の気持ちまで説明している。作者の残念な気持ちまでわかる。     「『あらいさん。』②といって、あらいさんのところを、ひとさしゆびでさしました。」あらいさんを指名している教師の姿までが読み取れる。ここにも、会話の後の発信者の動きをよく見つめている。会話そのものが生き生きとしてくるのだ。「『はい、東京大空しゅうの日です。』③と言いました。わたしは、(きょうが東京大くうしゅうの日か。)とおもいました。わたしは、東京大くうしゅうの本をよんだことをおもい出しました。」この会話は、教師の発問に対する答えになっている。(きょうが東京大くうしゅうの日か。)と、会話に対する答えに頷いていることが読み取れる。そこからさらに、自分がその本を読んだことまでを思い出している。
「『これから、東京大空しゅうのしゃしんを見せます。』④と言って、げんこうようしぐらいの大きさの白黒しゃしんを見せてくれました。」場面が変わり、大空襲の写真を見せている会話である。その写真の大きさを原稿用紙くらいの白黒写真と説明している。会話そのものが映像として、読み手に深く刻まれる。「上の方から見たすみ田くは、田んぼみたいで、草がチョコチョコとはえているみたいでした。コンクリートのほかの木のいえは、やけてぜんめつしていました。マツヤデパートのほうは、まるでむしやきみたいでした。どうろは、人げんのしたいでゴロゴロでした。」この部分は、写真の説明であるが、生々しい様子が伝わってくる。
「『人げんのしたいが、いっぱいでも、この人たちは、へいきだったんですねえ。』 ⑤
と、しゃしんにうつっているあるいていた人を見ながら言いました。」この会話によって、写真の中で死体のわきを歩いている人に注目させようとする教師の意図するものを、読み取っている。
「土手のほうのすみ田川には、くうしゅうの時にとびこんだ人たちが、したいになってながれていました。赤ちゃんをおんぶしたおかあさんがにげていると中、ばくだんにあたって、赤ちゃんをおぶっていたところだけ白くなっていて、ほかはぜんぶ、まっくろになっていました。赤ちゃんもまっくろでした。きゅうにしたいのしゃしんが、アップになりました。そのとき、わたしは、むねがドキッとして、きもちわるくなって、すぐ下を向いてしまいました。」紙芝居になっている何枚かの写真を次々に見せたときの、受け止め方である。強く印象に残ったことを、ていねいに描いている。この説明によって、大空襲の写真のの様子が、さらに詳しく伝わってくる。最後に、「むねがドキッとして、きもちわるくなって、すぐ下を向いてしまいました。」自分の受け止めたショックを素直に書いている。このように、会話の中味をていねいに見たとおりに書くことによって、会話が一段と生き生きとした中味につながっていくのである。
「みんなは、『やだあ、きもちわるうい。』⑥と、ワイワイガヤガヤがうるさくなりました。えの本先生のかおは、とてもかなしそうなかおをしていました。」この会話は、その場にいた周りの様子が伝わる、大事な会話である。同時に、「えの本先生のかおは、とてもかなしそうなかおをしていました。」と、写真を見せながら説明している、教師の顔の表情までていねいに見つめている。
「わたしは、(もう、せんそうなんておこるな。)と心の中で言いました。そして、(せんそうは、こわくておそろしいなあ。)とおもいました。わたしが大きくなっても、せんそうは、ぜったいにおこってほしくないとおもいます。」ここには、写真を見た後の自分の気持ちを正直に書いている。戦争は、絶対してはいけないという気持ちが、にじみ出ている。
「せんそうはんたい。ぼうりょくはんたい。せんそうはんたい。ぼうりょくはんたい。」 ⑦と大きなこえで、かた手をあげながら、1年1組のきょうしつをぐるぐるあるきまわっていました。この会話から、クラスの多くの子どもたちが、戦争をしてはいけないという気持ちが広がり、休み時間に歩き回っている光景が伝わってくる。この会話によって、その日の1時間の授業を、クラスの子どもたちが、どのように受け止めたのかがよくわかる。文章に締めくくりの、終わりの部分を会話を入れて締めくくっている。きっかけと締めくくりを会話で締めくくっている効果的な文章である。
 1年生でも、会話の意味について、たくさんのことを教えられる。特に、会話の前後の話し手の声の大きさや顔の表情などを書くと、会話そのものがさらに生き生きとしてくる。
また、その会話を受け止めた周りの様子などが書き込まれていれば、また会話が生きてくる。つまり、会話そのものに込められている話し手の気持ちまでが、伝わってくるのである。

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