子どもたちの文章表現指導を誰にでも出来る一般化理論の構築・えのさんの綴り方日記

忘れえぬ思い出の詩・その6

忘れえぬ思い出の詩・その6

早く帰って来いよ お父ちゃん
    豊島区立池袋第三小学校
    6年 山 本  学(仮名) 
夜中の三時頃トイレに起きた。
おしっこをしていたら、何かが聞こえた。
足音だ。
トコトコトコ
「あっ、お父ちゃんだ。」
げんかんあけてやろう。
ガチャン。
あけといたまま寝た。
ふとんの中で、
「お父ちゃん もっと早く帰って来て、四人でごはん食べよう。」
1972年 3月作「太陽の子」146号より
 この詩を書いた山本君は、今回の卒業以来二十九年ぶりに開いた同窓会の司会をしてくれた。もちろん幹事として、大いにふんとうもしてくれた。一週間前の十一月二十四日(日)の日に、当時三クラスあった学年の同窓会を開いてくれた。。学年で百二十人くらいいたが、三十数名の子どもたちが集まってくれた。半分以上の子供達は住所が変わってしまい連絡が取れないと言うことであった。ぼくにとっては、大学卒業して初めての子供達であった。その子供達を四年から三年間、続けて担任することが出来た。その子供達も、今年四十二才になる。卒業以来初めてあう子供達もいた。自分のクラスは、十年に一度は必ずやってくれていたので、すべてのこどもの名前と顔は一致できた。ところが、となりのクラスの子供達は、卒業以来初めての子どもと言うことで、ほとんどの子供達の名前と顔がなかなかつながらなかった。しかし、色々話をしているうちに、「あの子はサッカーが得意だった。」「あの子は、一番前にいて、髪の毛が少し茶色っぽい子であった。」「あの子は、水泳の得意な子であった。」などと断面だけが、少しずつ浮かんできて思い出すまでにずいぶん時間がかかった。しかし、向こうはわたしに対して、色々と思い出を話してくれるのだが、とうとうはっきりと思い出せないこともあって、大変申し訳ないことであった。となりのクラスであると、よっぽど印象に残っている子でないと、なかなか思い出せなかった。

卒業してから強いつながり

 この詩を書いた山本君は、わたしにとって忘れることの出来ない教え子の一人である。高校に入学してから、何かの理由で退学処分になった友人をかばって、何とか学校へ呼び戻そうとして、学校側と対立するようになって、自分も処分されそうになって、この子の母親から相談をされたことがあった。「学校だけは、絶対にやめてはいけないぞ。」と言うぼくとの約束を守って、何とか卒業してくれた。その後国鉄に入社して、あこがれの電車の運転手を目指して一生懸命働くが、国鉄の民営化路線で国鉄を辞めるか、鉄道公安員になるかの選択に迫られていた。そのつど、我が家に来てぼくの意見を聞きたいとたずねてくるのであった。彼は当時の国鉄の労働組合に入っていたので、そのまま残ることは厳しいという選択をしなければならなかったのである。やがて、鉄道公安員として残り十年間くらいそこで心と体を大いに使い、仕事をしていた。
 柳島小に勤めていた頃、秋葉原の駅で降りるときに電車の網棚にカバンを載せたままおりてしまい、大変困ったことがあった。カバンの中には、子どもたちから集めた剣玉などの集金が、五万円くらい入っていたのである。朝のラッシュアワーと言うこともあって、カバンを探すのは無理という駅員の忠告にあきらめきれずに、学校へ急いだ。さっそく彼の所に電話をして、何とか見つからないかと頼んだのである。 次の日の夕方、「先生終点の鶴見の駅で預かっているから、すぐに取りに行くと良い。」と言う電話をくれた。彼は、駅に色々問い合わせをしてくれたおかげで、あきらめていたカバンが無事に戻ってきたのである。教え子とは、ありがたいものであると、その時も感じたのである。

この詩にたくされた本当の願い

 実は、最初にのせた詩のことであるが、心にジーンと来る詩であったのでさっそくのせてみんなで読み合った。卒業して、二十才くらいになったときのクラス会を開いてくれたおりに、「先生あの詩の意味わかる?」と、ぼくに問いかけてきた。お酒も少しはいっていたので、彼はどうしてもあの詩のことがぼくに言いたかったのであるという。「でも、先生はあの詩のことを、うんとみんなの前でほめてくれて、生きる自信になったんだ。」とつけ加えてくれた。生き生きと働いているようだ。我が家に十年ぶりに娘が生まれたときも、その時の同級生を十人近く連れて、お祝いに来てくれたのも彼であった。今回の同窓会の名簿を我が家に仕事が終わってから夜遅く取りに来て、ひとしきり楽しい話をしていった。妻も彼のことは良く知っているので、娘を交えて、生まれたばかりの娘を抱いている彼の写真を見ながら、教え子って良いものだと、お酒がふだん以上においしく感じられた。

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