子どもたちの文章表現指導を誰にでも出来る一般化理論の構築・えのさんの綴り方日記

6月26日(月)つづり方通信への投稿

6月26日(月)つづり方通信への投稿

毎回『つづり方通信』は楽しみ

 大阪、高知,奈良、三重、福岡などの生活綴り方教師の研究会が、年1回暮れから2月頃の間に、行われる。私が、その会に関わってきたのは、乙部武志さんからの紹介があり、その会に参加するようになった。その中で、中心的に活動している一人に、高知の坂田次男さんがいる。明治図書の『解放教育』という月刊誌が廃刊させられるまでは、よく実践報告が載っていた。また、連載する、力のある方である。私の勤めていた墨田教組には、坂田さんを知るものが何人かいる。そのくらい全国的に名の知れた方である。現在会員が、100名ほど、全国にいると言うことである。そんな小さな会なのに、月に1度『つづる通信』と言う月刊誌を出している。しかも、年会費2000円という安い金額で発行し続けているのである。内容も、大変中味の濃い実践が多い。
 今回も、国分さんの本などを紹介したりしている。同じ高知の中内さんとの『往復書簡』が、なかなか迫力のある2人の関係が、よかったので、メールでそのことに触れた、簡単な感想を送った。すると、坂田さんから、直接電話があり、何か書いてくれませんかねという、依頼であった。田中さんか、私のどちらかが、ぜひ書いてほしいとなったのだ。メンバーで相談した結果、私が書くことになってしまった。

ご夫婦で投稿する綴り方教師

 いつも『つづり方通信』を楽しみに読んでいる。郵送された次の日に、いっきょに読み終えた。これだけの中身の濃い内容を、毎月編集されておられる、坂田編集長に敬意を表す。扉のページは、歌人の藤田美智子さんの原発に汚れた福島を詠んだものが多かった。七月二八日〈金〉から三日間、日本作文の会の全国大会が福島市で行われる。そのいそがしい合間に、このような見事な歌が詠めるのだから、頭が下がる。ご主人の誠也さんの「信達の風だより~フクシマから~」が一七回も続いていることもす
ごい。今回の『母語・方言の響き』も大変興味を持って読ませていただいた。

国分一太郎の『しなやかさというたからもの』

 今回、うらやましく思いながら読ませていただいたのが、『解放時代の苗代――ある往復書簡』だった。書き出しの所に国分一太郎の『しなやかさというたからもの』に触れていたことも、すぐに目にとまった。

えんぴつ削りは使わない

 1973年に出されたこの本を読み、私なりに教育現場の中で、少しでも子どもたちの手先をしなやかにしたいと考えた。そこで、えんぴつはナイフで削るようにさせた。教室には、えんぴつ削りは、おかないようにした。時々えんぴつ削り大会などして、みんなで楽しんだ。ひもを結んだりするのが難しくなってきたので、ベイゴマのひもに二つのだんご結びをさせて、ひもの片方も結ばないと、ひもがばらばらになることも教えた。一人ひとりに、鉄でできたベイゴマを配り、巻き方を教えた。親指と人差し指が、最も大事な手先になることを教えた。巻き方をきちんと覚えるまでには、最低一時間はかかった。次にそれを、回すのには、もっと時間がかかった。子どもたちは、休み時間に夢中になってやっていた。回せるようになったら、床と言って、洗面器の上に作る。その上にベイゴマが回ってはいるようになったら、合格だ。早くても、一週間はかかる。こんなふうにして、指先をうまく使うことの大事さを教えた。

剣玉に夢中

 またあるときには、剣玉協会の剣玉を一人ひとりに持たせて、皿の上に玉を載せるコツを教えた。剣玉協会に入っている私は、会長に頼んで、ビデオなどを購入して、基礎から教えた。剣玉を持つ持ち方は、やはり親指と人差し指が大事で、次に中指を添えるように持つことで安定する。えんぴつでも、箸を持つときも、親指、人差し指が、大切な働きがある。中指は、添えて安定させる働きがある。休み時間などに子どもたちは、夢中になってやった。やがて、うまい子どもは、何が共通点かを学び合った。それは、膝の使い方である。剣玉を載せるたんびに、膝を曲げて、球を受ける衝撃を弱めるのだ。こんなことを教えながら、一年間使いつづけた。上手な子どもは、日本一周、世界一周、灯台等が軽くできるようになった。やがて学芸会の時に、剣玉を取り入れた劇『遊びを返して』等という脚本を書いて、昔の子どもたちは、わらべ歌を歌いながら、集団で遊ぶことを楽しんだ。そこに、剣玉は、フィナーレで全員に『もしかめ』をさせて幕を下ろした。

野蛮な時代、ひまな時代を奪われた子どもたち

 そんなことを、この本から学んだ。国分さんは、あとがきにも書かれているが、子どもたちが野蛮な時代、ひまな時代を奪われてしまった。書かれた内容は、「キル」「コギル」「ブッタギル」「ヒネル・ネジル」などと、人間の指先を使うことが大切であることを訴えた。昔の子どもたちは、このような動作をきちんとできた。子どもたちの体がむしばまれていることを、動詞でたくさんの章を書いた。

「往復書簡」に感動

 さて、私が感心したのは、「往復書簡」の坂田さんと中内さんの関係だ。何でも、思いっきり自由に語り合える仲間がいることは、うらやましく感じた。坂田さんは、「自然の中で、生活の中で、社会的出来事を見聞きする中で、おどろき、なやみ、くやみ、いきどおりながら、真に自分の言葉と体を獲得させて行きたいなと思っています。今の子どもたちをむしばんでいる社会的病理からの解放だと思うからです」と訴える。「今の子どもたちは、お伽話に飢えています」「語りのじょうずな先生であって下さい」と呼びかける。同時に「四年生の子どもの書いた詩に赤ペンを書いて下さい。この子にお伽話を語ってあげて下さい」と書く。その手紙に対する、中内さんの返事も「人間のくらしの中にある人間の美を見逃さない教師でありたいと思います」「今の学校にないノンプログラムの教育が大事だと思います」と、直球で返信する。また、四年生の日記の赤ペンには、書き足りない内容を丁寧に質問を入れながら書いている。
 それに対する、坂田さんは「勝手な解釈や失礼な表現もあるとは思いますが、討論から生まれる、より深い認識のためにと考えて、ご容赦下さい」とへりくだりながら、ご自分の考えを展開する。「教育というのは、目的的・意図的・系統的でなければなりません」。私も、この坂田さんの考えに賛成する。国分さんは、日本作文の会の中でも、意図的・計画的な作文教育を大切にした。だれでもできる作文教育を目指していた。もちろん子どもが自由に書いてくる、日記指導も大切にした。坂田さんは、「生命を考えるお伽話として」の中で、家族全員で田植えをした子供時代の思い出を語っている。お母さんの足にヒルが数え切れないほどくっついていた話は、心奪われた。「お母さんの足にいっぱいくっついていたヒルは、どれも血をいっぱい吸っていて太っていました。憎きヒルを、お母さんとお父さんは、何かをさけびながら取りました。」坂田少年も、憎きヒルを、「このやろう、このやろうといいながら踏みつけて殺しました。」ここに、母を思う坂田少年の優しさがにじみ出ている。こんな話を教室でしたら、子どもたちは、目を丸くして聞くに違いない。私も、現役の時には、「無駄話」と称して、時々自分の子供時代の話をたくさんした。子どもたちは、みんな黙って聞いてくれた。

国分さんの語り

 国分さんも、お話の上手な方だった。「もしもしかめよ」の歌を、浄瑠璃調で語る場面を、二度ほど見た。体全体を動かしながら、顔の表情もおもしろおかしくして、語るのであるが、実に生き生きとした語りで、度肝をぬかれた覚えがある。その時は、何かの出版を祝う会で、お酒を飲んでいたときに、司会者に指名されてのことだった。国分さんは、こんなふうにして、授業もおもしろおかしく展開していたのだろうと想像した。
 最後に、中内さんは、「自己矛盾を克服したい」として、「子どもたちとともに、自分や社会の持つ価値の認識を見つめ直すことからはじまる教育が、ノンプログラムの教育だと考えました」と正直に書く。私は、ここでふと自分が実践してきた教育は、どうだったのかと問い直す。社会科でも、国語でも、授業の最初は、子どもの考えを引き出すところから出発したいと考えた。
 私の尊敬する社会科の教師は、「出たとこ勝負」と言った。子どもたちは、素直に自分の考えをはき出す。その中から、あらかじめ考えていた教師の側の意図的計画的なねらいと、結びつけるようにしていた〈必ずしもうまくいくことは、たくさんなかったが〉。作文の授業であってもしかりである。あらかじめこちらのねらいを持ちながら授業を進めていく。しかし、最初の子どもたちから出される考えは、自由に発言する。ですから、中内さんも、ふだんは、意図的計画的な目的意識を持ちながら、授業を進めていると、読み取った。
 それにしても、このようにお二人が、自由に自分の考えをいいあえる関係は、素敵だなあと感心した。とかく、生活綴方教師は、少数派なので職場の中でも敬遠がちになる。
 今回、嬉しくなって、国分さんの長男の真一さんにさっそく。このことをメールして、関西には、まだ国分一太郎ファンがたくさんいると連絡した。二週間後、山形の研究会の準備で、我が家に彼も来て集まったときに、この話もみんなに伝えた。誰かが、あの『つづり方通信』に書かないといけないとお願いした。とりあえず、「榎本さんが、やれよ」となった。
(国分一太郎「教育」と「文学」研究会)

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