子どもたちの文章表現指導を誰にでも出来る一般化理論の構築・えのさんの綴り方日記

9月20日(火) 笑えない認知症のこと

9月20日(火) 笑えない認知症のこと

 名前が思い出せない。お年を重ねれば、どうしてもそういうことがあろう。わが身にも兆候がある。俳優の名がなかなか思い出せない▼こういう場合はあきらめてはならぬそうで、ア行からそれらしき名前を順に探るのだが、なかなか的中しない。ほら文学座の出身で俳句もやっていた。中村伸郎さんだった▼取って付けたようだが、その中村さんが老化現象についてこんなエッセーを書いている。買い物に行こうとすると奥さんにどこに行くのかと聞かれた。「11PM」。そう答えた。コンビニの「セブン-イレブン」とかつてのテレビ番組の名と間違えたが、奥さんは奥さんで気がつかず、平気な顔で、「食パンを買ってきてください」と頼んだそうだ▼続きがある。その「セブン-イレブン」の隣のたばこ店で中村さん、今度は「セブン-イレブンください」。店番のおばあさんは、黙って「セブンスター」を差し出した▼昨日は敬老の日だった。悩んでいらっしゃる方を思えば、あまりのんきなことも言っていられぬが、なんと魅力的な会話か。ささいな間違いに角が立つでも混乱するでもなく、なんとなく話は成立し、誰も困っていない。それが老いによる緩やかさや気楽さのようなものだとすれば、一種の居心地の良さもあるだろう▼「セブン-イレブンください」。老いへのおそれを軽くするおまじないかもしれない。
2016年 9月20日〈火〉東京新聞 「筆洗」より

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